大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)13号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二、本件審決を取り消すべき事由の有無は、本件審決が引用例の開示する技術内容を誤認したかどうか、具体的にいえば、引用例記載のフェニルアラニン誘導体が抗高血圧活性を有する物質として有用性を有することが、本件審決がしたように、引用例第七欄第一七〜二五行の記載によつて明確に示唆されていると認めうるかどうかによつて決定されるべきであることは、本件における当事者双方の主張(とくに原告の主張)に徴し明らかなところであるが、本件に現われた証拠関係のもとにおいては、右の点に関する本件審決の認定は相当であり、したがつて、原告の主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち引用例の第七欄第一七〜二五行には、その直上の「この発明の新種化合物については多くの新しい用途が見出されるであろうこともまた可能性のあることである(It is also probable that many new uses will be found for the new class of compounds of this invention.)」との記述に続いて、「たとえば、α―メチルー3・4―ジヒドロキシフェニルアラニン、α―メチルー3―ヒドロキシー4―メトキシーフェニルアラニン及びα―メチルー3―ヒドロキシフェニルアラニンのようなある種の化合物は試験管中で哺乳動物のデカルボキシラーゼによるジヒドロキシフェニルアラニンのデカルボキシル化を抑制することが見出された。それ故に(hence)これらは昇圧性アミンの生成を制限し、停止せしめることにより、ある型の高血圧の治療に効果があるだろう(may be of value)」と記載されているのであるから、これらの記載は、引用例の発明者の単なる願望を表明したものでないことはもち論、単なる思考上の推測ではなく、実験を基礎とした理論をあげての推測であると認めるのが相当であり、したがつて、引用例記載のフェニルアラニン誘導体の抗高血圧活性を有する物質としての有用性を明確に示唆するものというを妨げないとせざるをえない。もつとも、スジョエルドスマの宣誓供述書及びファーマコロジカル・レヴューズ誌一九五九年第二巻によれば、引用例が該フェニルアラニン誘導体が高血圧の治療効果があるとすることを前提とした理論については、有力な反対の見解があつた事実、ことに、それが試験管内における動物実験の域を出て生体内において高い活性を示しうるかについては深い疑問が持たれるに至つていた事実を認めることができるが、右(文献)によれば、デカルボキシル化作用を抑制するものの中からも、なお生体内で活性のあるものが、選択的にもせよ、得られること、前記理論の基礎となつたと推測されるマーチン等の研究報告は、その実験成績が疑わしいものであつたにかかわらず、刺激的であり、その後の研究を誘発したものとして評価され、あるいは、フェニルアラニンとチロジンが抑制剤としては微弱なものであるという点でその研究が他の学者によつて確認された事実を窺知することができるのであるから、引用例に開示された前記理論が全く決定的には否定されえなかつたものであつたというべく、したがつて、引用例に開示された右理論及びそれに基づく推測が血圧低下の生理作用を有する薬剤を選択する根拠とは全くなりえないということはできない。しかして、原告の挙示援用する全立証によるも、右認定を左右するに足りないから、引用例の記載は、その記載のフェニルアラニン誘導体が抗高血圧活性を有する物質として有用性のあることを何ら示唆するものでないことを前提とする原告の主張は、その前提においてすでに失当であり、到底採用しがたいものというほかはない。

なお、原告は、本願におけるLI異性体の抽出に関する点についての審決の認定を攻撃するが、引用例がフェニルアラニン誘導体の抗高血圧活性を有する物質としての有用性を示唆するものというを妨げないことに関しては先に判示したとおりであり、しかも、ラセミ体を個々の異性体に分割することは普通に行なわれていることであること及び一般に特定の作用を有する物質を各成分に分割して有効成分のみを取り出すことが生体活性を有する化合物の製造の分野において通常のことであることを原告において自認する以上、この点について格別の反証のない本件においては、本件審決が前述のとおり認定したことを誤りであるとはいい難く、他にこの判断を動かす証拠はないから、この点に関する原告の主張も採用しえない。

(むすび)

三、叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 石沢健)

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